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まとまらない考えで頭を埋め尽くして社長室への扉を開けると、瀬乃山は先ほどの姿勢のまま、じっとこちらを見ていた。
「神崎。こちらへ」
はい、と答えた声は、緊張に掠れてしまった。
思わず喉を押さえながら近寄る。
瀬乃山のデスク脇のスツールを指定されて、躊躇いながらも腰を下ろした。
半日前に抱き合ったばかりだというのに、いや、だからこそ手を伸ばせば届きそうなこの距離に、体が強ばる。
「……大丈夫か?」
小声で労るような視線に、愛羅は恐縮して身を縮めながら、こくんと頷いた。
そのまま俯いて、瀬乃山の言葉を聞く。
宮武は、もう出社しないので安心してほしい。
宮武が愛羅にしたことは、役員と人事課長には伝えた。
宮武は懲戒処分だが、理由を公表するつもりはないから、それを知っている人は、理由を知っている人の他は、労務の処理を担当する者しかいない。
他の社員には、家庭の事情での退職ということにしてあるし、実際に実家のある九州に帰るらしい。
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