*1

18/25
前へ
/242ページ
次へ
「他の奴らには、おおっぴらにできる日まで、我慢な」 「……はい」 そんな日なんて、来るのだろうか。 一緒に働いている限り、来ない気がする。 それでふと、昨夜囁かれた台詞を思い出した。 ……俺の嫁になるっていうのでも、構わない……。 赤面する頬を隠すように、愛羅は益々俯く。 瀬乃山とプライベートの会話をしたことがなかったから知らなかったが、意外とこういうことを口にする人なのかもしれない。 こういう、愛羅の心を翻弄することを。 愛羅の前では無口だったが、経営者だから人前で話すことも多いし、愛羅より随分と歳上だし、自信に溢れた容姿は、宮武ほどではないが端正と言ってもよく、女性には困らないだろう。 華やかな人も多い業界で、女の扱いに慣れているのかもしれなかった。 「ごめんな」 ひっそりと落とされた言葉がやけに切なそうで、愛羅は顔を上げる。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2197人が本棚に入れています
本棚に追加