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「他の奴らには、おおっぴらにできる日まで、我慢な」
「……はい」
そんな日なんて、来るのだろうか。
一緒に働いている限り、来ない気がする。
それでふと、昨夜囁かれた台詞を思い出した。
……俺の嫁になるっていうのでも、構わない……。
赤面する頬を隠すように、愛羅は益々俯く。
瀬乃山とプライベートの会話をしたことがなかったから知らなかったが、意外とこういうことを口にする人なのかもしれない。
こういう、愛羅の心を翻弄することを。
愛羅の前では無口だったが、経営者だから人前で話すことも多いし、愛羅より随分と歳上だし、自信に溢れた容姿は、宮武ほどではないが端正と言ってもよく、女性には困らないだろう。
華やかな人も多い業界で、女の扱いに慣れているのかもしれなかった。
「ごめんな」
ひっそりと落とされた言葉がやけに切なそうで、愛羅は顔を上げる。
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