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「金曜の夜、空いてる?」
「はい」
咄嗟に業務のことなのか何なのか分からず、返事をしてしまう。
どちらにしろ、予定がないのは明らかだ。
「だったら、食事に誘ってもいいかな?」
揺れる瞳で伺いを立てられて、愛羅は息を呑む。
どうしてこの人は、こんなに怖がるように言うのだろう。
何度となく、これまでも声を掛けてくれていたのに。
愛羅が無言で頷くと、瀬乃山は片手で口元を隠して、デスクに向いた。
愛羅からは俯きがちの横顔だけが見える。
「何が食べたい? 何が好き? 嫌いなものは?」
いえ、と答えようとして、愛羅は口を噤む。
こうして外食をするなんて、いつ以来だろう。
先日、というには日が経ったが、姉の麗美とその恋人の隼人と昼食を共にしたのが、だいぶ久しぶりの外食だった。
そのときは、麗美と隼人という気を許していて、事情もすべて知っている二人と一緒だったから、何とかなったのだが。
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