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どうしよう。
清香と花蓮の前で、このまま堂々と瀬乃山の家に向かうことができるほど、愛羅はこうしたことに慣れていない。
それに、もう深夜だ。
これから行ったら泊まることになるだろうが、何も準備をしていない。
焼肉の煙に包まれていたから、臭いも気になって、とても瀬乃山の近くに行く気にはなれない。
何も言えずに、けれど足も進まない愛羅を見守って、瀬乃山はクスッと笑った。
花蓮に引っ張られるようにタクシーに入る愛羅に近寄って、耳元に囁く。
「……また、明日」
ドキリと息を止めた愛羅が、ハッとして振り向く。
隠し切れずに瞳を覗き込むように微笑むと、愛羅も頬を綻ばせて頷いた。
それから、気持ちが吹っ切れたように、軽い足取りでタクシーに乗り込む。
「気をつけて」
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