*4

22/23
2192人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
「じゃあ、触れてみて」 「……え?」 震えるほどの動揺は、己の腕で抱え込んで押さえ込み、瀬乃山は愛羅の顎を載せた手から、親指だけ動かす。 そうっと唇の下をなぞれば、雫を纏った睫毛が揺れて開いた。 「そんなことないと言うなら、突き放せばいい」 愛羅の丸い瞳には、瀬乃山だけが映っている。 彼女はどう思うだろうかと、思いやる余裕は無くなっていた。 ただそこに、自分だけを映しておきたかった。 おとなしく、引き寄せられるままに唇を合わせる愛羅に、安堵が広がる。 瀬乃山が言ったことは、本心だった。 誰もいない社長室でしか、普段愛羅と顔を合わせることがないと言っても、自分が平静でいられている自信はなかった。 彼女を見ていると、つい瞳が、唇が、気が緩んでしまう。 つい手を伸ばし、触れて、抱き寄せてみたくなってしまう。
/242ページ

最初のコメントを投稿しよう!