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その衝動を、毎日どれほど堪えているのか。
ふと目が合った瞬間に、それが彼女も同等だと信じ込まなければ、到底やっていけないほどだ。
こんな状態で、いつまで隠し通していられるのか、自分に分かるはずもない。
今でさえ、挙動不審になっていないか、冷や冷やする有様だ。
変な噂が立たない内に、愛羅が気に病まないうちに対処するのが、自分の責務だと思っていた。
せっかく二人きりでいられていた空間を手放すのは惜しかったが、愛羅をこの先ずっと手に入れておくためだ、仕方あるまい。
「……大変だろうけれど、君ならできるよ」
キスの合間に囁く。
息を弾ませた愛羅が、何とか頷こうとしているのを確認すると、答えを待たずに唇を鎖骨の合間に落とす。
まだそこに、赤い傷跡があるかのように。
目立つ位置だから強く吸い付くのは堪えるが、瀬乃山は必ずそこにキスをする。
優しく触れ、舐め、撫でることによって、愛羅の心の傷まで癒えることを願いながら。
そして、己は永遠に忘れないようにと戒めながら。
静謐な儀式のように、そこに触れるときだけは、しんと頭を鎮め、祈りを捧げる。
彼女がこれ以上、苦しまぬように。
永遠に、己の手で守らせてもらえるようにと。
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