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懐中電灯の明かりを点ける。
すると目の前に飛び込んできたのは扉だった。
見るからに古く、色が禿げた木製の扉。
開けようとしたが、やはり鍵がかかっていた。
「……なるほど。ここの鍵か」
ズボンのポケットから先ほど見付けた鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
この時、頭痛を忘れるくらいの不思議な高揚感が僕を支配していた。
鍵を右に回す。カチャリと小気味良い金属の音がした。扉の向こうに僕の世界は広がった。
「………」
ノブに手をかけた。見てはいけないものがある。そんな感覚に捕われる。不思議と笑みがこぼれ、声に出して思い切り笑いたくなった。
僕は扉を開けた。
―・―・―・―・―・―
今考えると、僕はものすごく悪いことをしたな、と思う。
中谷先生も僕が鍵を見付けた事に気付いたと思うし、結果こうして今僕はかの大都市、東京に住んでいるわけだ。
色々お世話になった中谷先生にはちゃんとお礼を言いたかったな。
思い出したくないが、…あの地下室には、孤児院生全員の「本来」のデータや政府からの機密書類、そして青空青雲孤児院が持つ本当の目的が記された書類など僕が全く知らない事実で溢れかえっていた。
そこで初めて「社会適性訓練所長野支部」という名前も知ったし、政府直々の指導者という先生達の本当の姿も知った。
そしてそこには他に孤児院生達の私物がそれぞれ綺麗に仕分けされていた。
私物といっても、入所する時に院生のものを先生が預かったものだろう。
ゲーム機やら雑誌やらリュックサックから妖しいグッズまで多種多様であった。
それもそのはず、僕のいた孤児院…いや、社会適性訓練所は変わり者ばかりだったから。
ただ、僕と同じく生まれてからずっとそこにいたハルの所には何もなかった。死んだ時に一緒に処分したのかも知れないが、名前は残ってるのに何もないというのは寂しい。その時改めてハルの死を実感したのを覚えている。
僕の所には…封筒が置かれていた。どこにでもある茶封筒。
その中に今、僕の生活を支えている自分名義の預金通帳が入っていたのだ。
あの世界を脱走するきっかけになった預金通帳。
なぜか未だに入金が続けられている預金通帳。
皮肉にも、これのおかげで孤児院時代よりは良い生活を送れている。
もうあそこを脱走してから、五年が経っている。僕はそろそろ時効かなと思っている。
ハルのお墓参りもしたいしね。
―少年時代・完―
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