―少年時代―

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他人にお節介を焼きすぎることを邪険に言われ、人との接し方に悩んでいたハル。 自分が辛くても、悲しくても、決して笑顔を絶やさなかったハル。 今は遠い長野の地で安らかに眠っていることであろう。 ハルが死んで間もなく、僕は孤児院を出た。出たといっても脱走に近かったが。 出て行く決め手になったのは、僕名義の預金通帳だ。 ―・―・―・―・― 脱走前夜、寝付けなかった僕は睡眠薬を貰いに職員室に向かった。しかし既に夜十一時を過ぎていたためそこに先生達の姿は無く、金魚の水槽の薄蛍光灯がぼんやりと映えているだけであった。 わざわざ先生を起こすには気が引けた僕は、通常の薬箱とは違う特殊薬品箱を探すために明かりを付ける(睡眠薬の他にその薬品箱にはハルシオンやセロトニンといった本来ならば医師の処方箋が必要な安定剤等が保管されていた)。 当然ながらなかなか高価な薬が入っている箱というのもあり、見つからなかった。 おとなしく睡魔が来るのを待とうと決め、職員室を後にしようと明かりを消したその時、視界の隅で何かがチカッと白く光った。 そこは天井付近に設けられた神棚が存在する場所である。当然発光する要素などは無い。 普段なら見間違いとでも片付けて気にすることなんてなかったが、不思議とこの時は何も考えずに僕は椅子を足場に神棚の小さな扉細工を開けた。 今思えばこの行動が無かったら…まだ僕はあの小さな世界の中でハルを失った悲しみに暮れていたことであろう。 この時は何かに導かれていた…といったら少し誇大かも知れないが。 話に戻る。明かりは消えている。水槽専用の蛍光灯から放たれる光量は微々たるものでしかなく、部屋は真っ暗である。 ところが僕にはそこに何かが有るという確信があった。暗視能力などあるわけでもないし確信に至る根拠なども無いが、実際そこには鍵が置かれていたのだから人間というものは不思議である。 一旦自室に戻り、錆かけたソレに目をやる。 見たことがない鍵である。 まぁあんな所に隠してあったわけだし見たことがないのは当然だ。…いや、隠されていたという表現は適切ではないかもしれない。 神棚の中にあったのだから、奉られていたという可能性もある。
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