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彼は重い病気にかかっていました。
心臓の。
生まれつきだったそうです。
わたしと出会った中学校のときは、彼の体調が一番良いときだったそうです。
付き合って、そういったのはわたしの方からでした。
彼のすべてが好きで、どこが好きかといわれても、上手く答えられません。
好きだから、好き。
ありのままを伝えると、彼は少し考えてから、いいよと笑ってくれました。
彼の体調が悪くなったのは、その数か月後でした。
このままでは命が危ないと言われ、彼は休学し、入院、ということになりました。
『高校に入ったら、毎日来てほしい』
彼の最初で最後のわがまま。
わたしは毎日通いました。
雨の日も、雪の日も、真夏の日も。
そして高校三年の夏、彼は亡くなりました。
あっけなく、死んでしまいました。
彼の母が泣きながら「ありがとう」と言ってくれました。
彼の父が「こんな彼女を持って真も幸せ者だな」と言ってくれました。
彼の死に顔は、安らかでした。
昨日までの彼と変わらず、同じ表情をしていました。
ボロボロと涙が止まらないのです。
彼の前では、泣かないって決めたのに。
笑顔でいようって、決めたのに。
涙は頬を何度も何度も伝いました。
生暖かい雫が、床に零れ落ちます。
「真……」
『……ありがとう』
昨日の彼の「ありがとう」が何度も何度も再生されます。
彼は、自分の死期を悟っていたのでしょうか。
今となっては知る由もありませんが。
『ありがとう……綾子』
彼は明日も生き続けます。
わたしの心のなかで、
永遠に。
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