叩いた扉のその先に

　目の前の、高い位置から私を見下ろすあの人の目はとても冷たい。いや、あの人だけじゃない。その両隣に立っている人も、私を囲むようにして座っている人も、みんな冷ややかな視線を私に送っている。

　みんな、普通じゃない。
まず、私はそう思った。自分がどうしてこの場に立っているのかも理解出来なかったし、そもそもここがどこなのかも分からなかった。ただ分かるのは、今、自分の足が震えていることだった。

「ねぇアリス」

　背筋がぞわりとするほど、がさがさと聞きづらい声を誰かが発した。まるでノイズのようだ。
　首を回して声の主を探す。どうやら、声を発したのは私の真後ろに用意された席に座っているお婆さんのようだ。私はこのお婆さんを知らないのに、お婆さんは私を知っているようだった。だって、私のことアリスって呼んだんだもの。

「お前は、自分の罪を覚えているかい？」
「つみ、ですって…？」

　私、一体何をしたというの。思い出そうとしてぎゅっと目を瞑る。しかし、思い出せるものが一つもない。もしかして、私の頭は空っぽになってしまったんじゃないかと思うくらい、何一つ思い出せなかった。

「女王様が大切にしておられる花を、折っただろう！」

　今度は、甲高い声がその場に響いた。