叩いた扉のその先に

　あまりの喧しさに、耳を塞ぐ。色んな声に、私の頭は混乱するばかり。女王様のお花なんて知らない。どうして私のワンピースのポケットに入っていたんだろう。そもそも、女王様なんて人も私は知らない。
　わけがわからなさすぎて吐き気も覚える。眩暈がして、膝をついた。一体ここはどこで、何が起きていているんだろう。あれ？そもそも、私、アリスって名前だったっけ？

「静粛に！」

　頭痛が始まった頭で何かを思い出しかけたけど、ガンガンと何かを叩く大きな音とさっきまで喋っていた人とはまた違う男の人の大きな声に意識を奪われ、掴みかけた何かをすぐに忘れてしまった。
　その音と声で、しんと静まり返る。私も含め、誰もが私達を見下ろしている三人へと視線を向けていた。

「女王様、判決を」

　ガンガンと棒のようなもので床を叩いた男の人とは反対側の男の人がそう言った。その人の視線は、真ん中に座っている、私をひどく冷たい眼で見る人に向けられていた。
　あの人が、女王様？

「判決、死刑」

　最初からずっと口を開かなかったあの人がそう言った瞬間、周囲がわっと湧いた。まるで何かのお祝いのように。しけい、シケイ、死刑…？

「どうして…っまっ」

　あの人が発した言葉の意味を理解した時、水色のワンピースを着た女の子の体がまるでバイバイと手を振っているような姿が目に入った。その子の首から上は何もなくて、あぁ、あれ、私の体だ、と理解するのには数秒かかった。