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その化け物は硬い皮膚を持ち、足はでたらめに速い。ほうぼうを走り回り、人間を丸呑みにする。老若男女問わず何十人を呑んだり吐いたりする。
そう、吐き出す。化け物が口をあんぐり開けると、それまで呑まれていた人が押し合いへし合い次々になだれ出てくる。
その光景は圧巻で、見ていると不思議と胸がすく。
私が初めてその化け物に呑まれたのは3つの時。もうそこから出られなくなるんじゃないかと不安になって泣きじゃくった。
今ではもう慣れたもの。化け物に呑まれても平然としていられるようになった。
泣きじゃくった子どもはたまに見かけるが、周りの大人はゆったりとくつろいでいる。かく言う私もその1人。
居合わせた人々を観察するのも一興。居眠りするのもまた一興。化け物が駆け回る振動は不思議と眠りを誘う。それに合わせてうつらうつらするのは非常に気持ちがいい。
夏季は涼しく冬季は暖かく。化け物に呑まれるのは存外悪くない。
無口な化け物は胃の中の人間たちにボソッと告げた。
“ご乗車ありがとうございます。お出口右側になります”
すっくと立ち上がった人々は、流れに乗って化け物の体内から吐き出された。
そして外のひんやりした空気を一息吸って、散り散りに帰途につく。
END
【化け物に呑まれるのは存外悪くない。】
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