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「教授!きょうじゅー!」
背後からの呼び掛けに、志村公一はゆっくりと振り向いた。
「僕は教授じゃない。単なる講師だよ。」
「そんなの、どっちでもいいじゃないですかぁ!」
追い縋って来た女子学生は、肩で息をしつつ、そう言い放った。
「良くないよ。僕が教授を名乗ったら、身分詐称になっちゃうからね。呼称、言語は正確に発言すべきだ。似て異なる事の混同は、大きな過ちの元に・・・」
「そんな事よりもっ!」
この理屈っぽい講師の説教に辟易しているのだろう。
女子学生は、それを遮った。
「今日の講義の、安倍清明についての話ですけどっ!」
公一は、この大学で”魔法学”と言う、一風変わった講義を持っている。
が、彼の講義内容は、何も西欧の白及び黒魔術に留まらない。
世界各国、様々な宗教儀式の内容とその効果に関する考察から、東洋呪術、陰陽道、民間のまじないまで、世間一般で”オカルト”と呼ばれる物を広く網羅している。
「ああ。あれか。」
しかし公一の歯切れが、急に悪くなる。
彼にしては珍しい事だった。
「ええ。清明が殺され、バラバラにされた父親を蘇生する下りですが・・・」
「有り得ないね。」
「・・・え?」
女子学生は、信じられない物を見たと言わんばかりに目を見開く。
「遺体を繋ぎ合わせて、既に死んだ人間を蘇生する、なんて、ある筈無いだろう?」
「だ、だって・・・!」
女子学生は、尚も食い下がる。
「教授、いつも言ってるじゃないですか!」
「だから、僕は講師だよ。」
「”人の想像の及ぶ事は、存在可能性として眼前の事実と等価だ”って!”有り得ないと言う言葉は、無知による主観に過ぎない”って!」
「・・・」
「”反魂の修法”についても、懐疑的な意見を述べられていましたよね!?」
「・・・」
「何故、教授は、生き返りや蘇生についてだけは否定的なんですか!?」
「・・・死、とは。」
公一は、徐に口を開いた。
「”絶対的な摂理”であり、それから逃れ、生き返ろう等とする事は・・・」
彼の視線は、怪訝な顔の女子学生ではなく、宙に注がれていた。
「”人の命を奪う程に”・・・有り得べからざる物なんだよ。」
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