第一章 ゴーレム理論

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「・・・三十年以上昔の本じゃねーか。それ。」 表紙に記載してある日付を伺い、一志が呆れ声を挙げる。 「そんな古臭ぇもん、何で今更読んでるんだよ?」 「ちょっと、興味深い論文が載っててな。」 軽く深呼吸し、気を落ち着けた雅博が応えた。 「何何?タイムマシンのヒント?」 魅沙が興味を引かれたらしく、雅博の手元の冊子を覗き込む。 雅博の、将来の目標。 ”科学者になって、タイムマシンを発明する”。 一見、荒唐無稽な、子供染みた夢であはあるが。 彼の父、公一の言葉。 ”例え現代科学で解明不能な物や、想像の産物だとしても、人の思索の範囲にある物は、目の前の現実と、存在可能性上は等価である” それが、雅博を突き動かした。 果たせるかどうかは、解らない。 それでも。 挑戦しなければ、”存在可能性”はゼロだ。 「・・・いや、そっちじゃ無くて、さ。」 とは言う物の。 それにしたって、先ず”科学者”にならなければ、意味は無い。 その上、世には一個人の脳に入りきらない程、多くの知識、学識がある。 雅博は広くそれを仕入れる事で、結果的に目的が果たせれば良いと、そう考えている。 ”急がば廻れ”では無いが、直接的にタイムマシンには関係無い様な物でも、興味を引かれた事は、取り敢えず目にして見るのが雅博式であった。 「なになに?”ゴーレム理論”?」 魅沙が、ページ上部のタイトルを読み上げる。 かしゃん。 その時。 小さな物音。 場の一同が、そちらに目を向けると。 「あ、ごめんなさい。」 何の事は無い。 夏南が茶の入ったカップを取り落しただけの事だった。 「私ったら、ドジ。えへへ。」 苦笑しつつ、カップの無事を確認し、零れた茶を布巾で拭う夏南。 何気無く、雅博と魅沙は、再び学会誌に目を移す。 ただ。 「・・・」 一志だけが、気付いていた。 夏南の、その小さな背中が。 微かに、震えている、その事を。 「・・・だめだー!解からん!」 突然、魅沙が声を挙げて天井を仰いだ。 無理も無い。 一介の中学生に、大学院レベル以上の学会誌の内容を理解出来る筈も無い。 雅博は、例外中の例外なのだ。 「一体、何なのこれ!?」 「まぁ、簡単に言うと・・・」 だが、雅博自身。 その言葉を口にする時。 微かに、肌が粟立った。 「死者の蘇生、かな。」
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