僕と通り魔

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 僕は半ば『引きこもり』と言われる人物だった。  大学の講義にも行かず、こうやってずっとキャスター付きの椅子に膝を抱え、ブラウザに表示されるコメントを見ている。  電子的空間の匿名を悪く言う奴らもいるが、僕はこの干渉されない距離感がちょうど良いと思っていた。僕も匿名の彼らもこの距離感を保っているからこそ、僕がこうしてネットに閉じこもっているのかもしれない。  そのまま膝を抱えた体制で掲示板のコメントを読む。  僕がたてたスレッドだから、少し気になるのだ。いや、それ以前に面白いのだ。こうして推測を吐き散らして、間違った方向に話を持って行ったり、分かりもしない真相を考えたり。僕もこうして観察しているのが楽しくて仕方がないのだ。 『2015/7/8/14:25 22>犯人誰だろーね>all』 『2015/7/8/14:26 23>何が? >22』  僕は呆れ返って返信した。 『2015/7/8/14:27 24>つい最近の通り魔報道だよ>23』 『2015/7/8/14:29 25>へえ、そうなんだ笑 ありがと>24』  『23』はこのスレッドがなんだか分からなかったらしい。つい感情的になってしまったけど、礼儀正しいやつでよかったと僕は胸を撫で下ろした。  そのままコメントを見ていると、僕は目を見張った。 『2015/7/8/14:32 26>でもさー、昨日のも物騒だよね>all』  __昨日?  そんな訳がない。あの通り魔は僕が目の前で女性が殺されたのを境に止まってるはずなのに、昨日とはどういうことか。 『2015/7/8/14:33 25>昨日?>26』 『2015/7/8/14:34 26>うん。報道されてたよ>25』  僕はブラウザを新しく作り『通り魔』と調べる。するとコメント通り、一昨日から昨日にかけて、同じ時間帯で起こっている。僕は首を捻った。もしかすると、僕が覚えていないだけかも知れない。それだったらいいのだが。  パソコンのファンが作動する音のみが僕のいる空間を支配する。僕は一息つくと眠りについた。
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