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最近見つけたのだという近道の裏道を通りながら僕らは話していたが、不意に靴紐がほどけたと春奈がしゃがんだ。僕も少し前で立ち止まった。
「ねえ、怜音」
「ん?」
春奈は無表情で抑揚のない声で僕の名前を呼んだ。どうしてか寒気が襲った。僕は平然とそう返したものの、少し動揺していた。
「貴方、私の姉を殺したわね?」
「は?」
僕は素っ頓狂な声を上げた。「え、なんで? そう思ったの?」
「だって、だって、あたしの……アタシノ」
スイッチが入ったらしい。春奈が『あたし』というときは怒った時だ。
「アタシのオネエチャンを殺したでしょ!」
「だから、どうして?」
「オネエチャンはこの道をよく通るの、貴方もよく通るの。だから、だから、オネエチャンを殺したんじゃない!」
「理不尽だよ」
感情が高ぶり支離滅裂なことを口走る春奈に、僕は冷静にそう言った。
「オネエチャンは日記に書いていた! 『貴方の彼氏に付きまとわれてる』って!」
違う。僕じゃない。違うちがうチガウ。
「__僕じゃない」
赤い紅いアカイ血が僕に、ふり、かかって……それで、目の前で、オンナノヒトが崩れ、おちて、僕は、僕は、僕は!
「ダカラ、アタシは貴方に復讐するの!」
そう叫ぶと、春奈は僕のほうに突進してきた。あまりにも突然のこと過ぎて、僕は春奈の体当たりを受けた。途端に腹のあたりが冷たくなり、次の瞬間猛烈な痛みと熱さが体を駆け抜けた。
あっけなく僕はその場に崩れ落ちた。
アア、カノジョが最期に見た景色がヤット分かった。僕は春奈を恨むような目で見た。彼女も僕を恨むような目で見た。
春奈のお姉さんも僕に殺された人も、こうやって恨むような目線で、顔で、目つきで僕を見てきたのだ。
知らなかったのだ。
先週に刺殺したのが春奈のお姉さんだって。確かにどこかで見たことのある顔だとは思った。けれど、気づかなかった。
途切れることのない赤が僕の腹部から広がっていく。
アア、そうか。一昨日と昨日の通り魔は__
春奈は僕の返り血を浴びて、口角を上げると、こう言ったのだった。
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