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 わたしは木南くんのとなりに座った。  彼はわたしには目もくれず、推理小説に夢中になっている。  そんな彼の横で開いた本は、興味もない外国の歴史小説だった。  小さな文字は全く頭に入ってこなくて、わたしはぼんやりと白い紙を眺めていた。  静かだった。  誰かが音楽室でピアノを弾いている音が小さく聞こえた。 (パッヘルベルのカノンだ)  それは、わたしが一番好きな曲だった。  たどたどしいその指は、一生懸命に旋律を奏でようとしている。  けれど何度も途中で間違って、そのたびにまた最初から弾き直す。  ピアノの音に耳を傾けていると、となりで紙がカサリと音を立てた。  たどたどしいカノンと、となりで木南くんがページをめくる音……  それだけが聞こえるこの場所が、わたしにはとても心地よく思えた。  結局、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、わたしの手にある本は一度もページがめくられることはなかった。
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