無口な彼

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ああ最悪……。 昨日は彼氏と喧嘩した。 一緒に暮らしているから、どんなに気まずくても部屋に帰れば顔を合わさないわけにはいかないし。 お互い友達とかいないから、他に行くあてもない。 だから私も彼も仕事が終われば部屋に帰るしかないのだ。 残業した訳じゃないけど、すぐに帰る気になれなくて街をブラブラしてムダに時間つぶししてみた。 歩き疲れた…もう無理。 仕方ないから帰ろう……。 悪い事は重なるもので、アパートの前まで帰ってきたところでアクシデントが起きた。 コンタクトレンズを落としてしまったのだ。 もう疲れていたので捜し出す気力もない。 もういいや……。 投げやりな気持ちのまま、部屋へ帰った。 「ただいまー」 彼はとっくに帰っているようだ。 コンタクトがはまっていない為、ぼんやりとしか見えない。 「『おかえり』くらい言ってよ。まだ怒っているの?」 彼が無口な事はよく知っているけど、こんな気まずいのに何も言ってくれないのって…どうなの? 「怒っているのなら、せめて理由くらい言ってよ!黙ったままじゃ何も分からない!!」 彼の表情もよく解らないし、何も言わない彼にだんだんイライラが募って来る。 「もしかして別れたいとか思ってるの?」 言いながら悲しくなってきて、ボロボロと涙が溢れだしてきた。 「いやよ!私は別れたくなんかない。黙っていれば私が出ていくとでも思ってるの?そんなわけないでしょ。私があなたを置いてこの部屋を出て行ったりなんかしないわ!だって私にはあなたしかいないの。私はあなたと一緒にここに居たいのよ!!ねぇ、どうして黙っているの?何か言ってよ……。一言でもいいから、なにか言って……」 隣の部屋から、彼が私に向かって歩いてくるのが見える。 私は黙って彼が何か言葉を発するのを待っていた。 「あの、あなたの部屋はとなりなんですけど?」 …………………………もっと早く言いなさいよ。
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