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いやいや、そういうことじゃねんだ。
勝手に話を逸らすんじゃねえよ、てめえ。
とにかく俺はお前みてえにそうやって、本心隠してなんかのせいにしたがるヤツが、大っ嫌えなんだよ。
あ?
鰻の話だよ、鰻。
食いてんだろ?
女の腰みてえにキュッと締まった、オンザぷりぷり脂な鰻がよ。
それともなにか?
『ホントはどっちだってかまわねんだけど、周りの空気が鰻めいてるから、付き合ってやってやるんだぜ。ボクってクール』みてえな脳みそステータスか?
だったらお前、さっさと死んじまえ。
『イヤ』じゃねえよ。
男が脇締めて、口の前にグー二つ持ってきたって気持ち悪いだけだ。
やめろ。
それよっかアレだ、川へ飛び込むでも、てめえでてめえの首絞めるでもなんでもかまわねえから、とっととやれよ。
ここで見ててやっから、俺が。
あ?
どうした。
おいおい、ここまできてためらうとかナシにしてくれ。
なに?
あんたの言葉に戸惑いを覚えるボクがいる?
いやいや、そういうことじゃなしに、ちった考えてみ。
お前の頭蓋骨の中身でいきゃあ、周りの空気がもし『生き続けることより、今ここで死ぬことのほうがクール』ってことにでもなりゃ、当然、死ぬべ?
いや、そこは縦に首を振っとけよ。
じゃなきゃこっちが困っちまう。
な、悪いことは云わねえ、頷け。
まあいい。
頷いたことにしとくぞ。
うん、お前は今しっかり頷いた。
でだ。
そっちのほうが断然イカしてるってことになれば、それこそ先をこぞって死ぬ感じだろ?
『嗚呼、素晴らしき涅槃かな、こりゃこりゃ』とか辞世の句なんか詠んじゃったりしてよ……あ? なんだてめえ、これから死ぬって人間が泣いてんじゃねえよ。
泣くなら黙って泣け。
俺の声が聞こえねえじゃねえか、この野郎。
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