緒夏、情ヲ食メ。風ヲ匂ヘ。

　ったく。

　結局、夏だから鰻食ってスタミナつけて、なんてのはその程度のことなんだよ。

　だから暑いだの寒いだの情緒だの風情だの、そういうどうでもいいことのせいにして、食うもんじゃねえんだ、鰻は。

　食いてえから食う。

　たとえばお前の横で何千万人がそいつをムシャムシャやってようが、その日が土用の丑の日だろうが海鮮特売日だろうが、食いたくねえときは食わねえ。

　それが自分を生きるってことだ。

　わかったか、この色情しか持ってない多情な人妻好き野郎。

　ああ、今のは気にするな。

　さらっと流しとけ、さらっと。

　あ？

　うっせえな、自分に云ったんだよ、自分に。

　なになに？

　メシ奢るから勘弁してくれ？

　おお、なるほどな。

　そういう許しを乞う系ネゴシエイト、嫌いじゃねえよ、うん。

　どっちかっちゃあ好きなやり口だ、うんうん。