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「竜の涙は私が頂くわ」
私は、右手に握り込んでいた大粒のダイヤモンドを夕日にかざした。
「別に良いけど、それ、レプリカだよ? 本物はこっち」
「え!?」
ギョッとして、手の中のダイヤに気を取られたのがまずかった。
『しまった』と思ったときには、私は彼に抱き上げられてしまっていた。
「ちょっ、ちょっと卑怯よ! そんな子供だましみたいな手を使うなんて!」
「その手に引っ掛かったのは、誰でしょう?」
クスクスと楽しそうに笑う顔が近すぎて、思わず顔が上気する。
「まあ観念して僕のプローポーズ、受けちゃいなさい。そうすれば、ダイヤは2人の物。万事めでたく大団円だよ?」
なによ、その三段論法は!?
ふっと、微かに残っていた空のオレンジがディープ・ブルーに変わった。
「答えは?」
近づく彼の笑顔。
完全に闇に覆われた暗い世界に、ポッカリと浮かんだ白い満月が、楽しげに私達を見下ろしていた。
―おわり―
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