君のそばに、いるだけで。

5/9

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
それでも、不思議ね。 彼の声は知らないけど、好きな食べ物は知ってる。 彼の声は知らないけど、好きな音楽を知ってる。 彼の声は知らないけど、子どもの頃見てたアニメを知ってる。 彼の声は知らないけど、私を愛してくれていることを、知ってる。 仕事後、待ち合わせデートの帰りに、手を繋いで歩いた。 毎日保湿クリームを塗り、淡い桃色のマニキュアを塗った私の手。 毎日力仕事に精を出し、マメが出来ては潰れ、ゴツゴツと固い、彼の手のひら。 別れ際、不意に腕を引き寄せられて、抱き締められた。 ちょっと甘めの私の香水に、彼の汗の男臭いにおいが混ざる。それが嫌じゃないのよ、おかしいでしょ? でも、そんなふれあいや、ちょっとしたにおい、温度、感触なんかで、彼のことがほんの少しずつ、わかる。 今日もしっかり働いてきたんだなぁとか、今日は外が暑かったんだなぁなんて伝わってくる。 私を抱き締める腕が、慣れないせいか緊張のせいか、震えている。優しすぎるほど力を込められずにそっと、腕をまわされている。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加