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それでも、不思議ね。
彼の声は知らないけど、好きな食べ物は知ってる。
彼の声は知らないけど、好きな音楽を知ってる。
彼の声は知らないけど、子どもの頃見てたアニメを知ってる。
彼の声は知らないけど、私を愛してくれていることを、知ってる。
仕事後、待ち合わせデートの帰りに、手を繋いで歩いた。
毎日保湿クリームを塗り、淡い桃色のマニキュアを塗った私の手。
毎日力仕事に精を出し、マメが出来ては潰れ、ゴツゴツと固い、彼の手のひら。
別れ際、不意に腕を引き寄せられて、抱き締められた。
ちょっと甘めの私の香水に、彼の汗の男臭いにおいが混ざる。それが嫌じゃないのよ、おかしいでしょ?
でも、そんなふれあいや、ちょっとしたにおい、温度、感触なんかで、彼のことがほんの少しずつ、わかる。
今日もしっかり働いてきたんだなぁとか、今日は外が暑かったんだなぁなんて伝わってくる。
私を抱き締める腕が、慣れないせいか緊張のせいか、震えている。優しすぎるほど力を込められずにそっと、腕をまわされている。
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