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酷く弱り、言葉をほとんど話さなくなった妻の最後の言葉となった。
妻がどこへも行かないなど、そんなことはあり得なかった。
捕まえておくことは不可能だった。
だが、老いて思い通りに動かなくなったあの体に妻を閉じ込めておくよりも余程、逝かせてやるのは妻にとって良いことだったに違いない。
私は妻の自由を奪わぬよう、もう少し遅れて逝くとするよ。
「わたしは、どこへも行きませんよ」
耳に蘇るその声は小さく、ともすれば聴こえないほどだった。
-end-
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