海原十月 其の四

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 この物語を進める上で欠かすことのできない人物が二人いる。 「なるほど。加賀宮さんの話を聞く限りでは、確かに、私の分野であるのかもしれませんね」 八十国征介(やそぐにせいすけ)は氷をたっぷりと入れたグラスにウィスキーを三分の一ほど注ぐと、そう言った。 その一人が彼、八十国征介だ。長身、長髪、超美形。最後の「超」は字が違うけれど、そんな「ちょう」が三拍子揃った彼の職業はバーテンダー。表向きは。否。本業はバーテンダーで正解なのだ。しかし、僕にとって八十国はバーテンダーとしてよりも「あちら側の世界」が絡んだ出来事に対しての相談役、窓口としての存在である。彼との付き合いは、一年前の出来事からになる。あの件の中で、彼がここ相神原市でバーを経営していることは聞いていた。その所為か、何の因果か僕がこの街にある店舗を任されることになった時も、奇妙な縁に引かれるように、こんな偏狭とも言える土地に赴くことを快諾してしまったのだ。 「けど未だに半信半疑ではあるよ。あの一件でこういう世界もあるんだってことは身を持って知ったわけだけど。一年も経たない内にまたそういうものと関わることになるなんてありえるものなのか?」  目の前に置かれた小皿からピーナッツを摘んで口に放り込む。バターの香りと程よい塩気が口の中に広がる。  八十国は料理の腕もなかなかのものである。このピーナッツも出来合いの市販品を器に入れたものではなく、八十国自身がじっくりとバターでローストし塩を振った一品だ。手の込んだ高級料理というわけではないが、アルコールに合う料理を作ることに関しては三ツ星を与えるに相応しい腕だ。 「怪異、という言葉をご存知ですか?」    八十八国はそう言いながら、先ほどのグラスにジンジャエールを満たすとマドラーで軽くステアして、カットしたライムを沿えて僕の前に差し出した。  この店での僕のお気に入りドリンク、フォアローゼスのジンジャハイボールだ。 「かいい?こういう出来事をそう呼ぶのか?」  グラスの淵に添えられたライムを絞って、ジンジャハイボールを口に含む。フォアローゼス独特の苦味と爽やかなジンジャエールの味が程よくマッチし、ライムの酸味が後に残る。相変わらず美味い。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加