海原十月 其の四

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「ええ。妖怪とか、神様、幽霊、その他諸々の超常現象。それらをひっくるめて「怪異」と言うんだそうですよ。まぁ、原因が何だかよく分からない。理屈で説明できない現象の総称ってところですかね」 「怪異ね…。思えば、八十国さんとの付き合いも一年になるけど、こういう話題って出たことなかったよな」 「加賀宮さんにとっては、あまり気持ちのいい話題ではないと思いましたから。あえて私の口からは……ってとこですかね」 そういうことか。気を遣ってくれていたわけだ。 「加賀宮さん。忘れないで、くださいね」 「わかってるよ……約束、だからな」 忘れたいなんて思ったことはない。思い出したくないなんてこともない。忘れることはできない。忘れない。そうすることが、彼女に対する僕の罪滅ぼしなのだから。 「それで、先ほどの話しに戻りますが……」 「ああ。海原のことか」 「あ、いえ。加賀宮さんの場合は、まず怪異そのものに関しての認識を改めるところからですかね」 八十国は当たり前のように言った。怪異というものが間違いなく存在し、それが極々身近な現象であるといったように。幸い、客は僕一人。といってもこの店に来る客といったら僕か、あの生臭神主くらいなものなのだけれど。よくこんな客の入りで経営が成り立っているものだ。 「怪異の認識?というと?」 「加賀宮さん。怪異というものは、あなたが思っているほど離れた世界の出来事ではないんです。原因は様々ですけど「それ」は何時も「そこ」に存在していて、何時も何かを起こしているんです。ただ、気付いていないか、気のせいにして忘れてしまっているだけなんです。加賀宮さんが昨夜目にした出来事は極端な例だとは思います。だからこそ記憶に強く残っただけであって、怪異というのは常に加賀宮さんのすぐ隣にも「ある」か「いる」ものなんですよ。それはほんの些細なきっかけで関わりを持ってしまうほどにね」  八十国は一仕事終えたといった雰囲気でシャツのポケットからタバコを取り出しで火を付けた。こういった店ではバーテンダーが客と一緒に酒を飲んだりタバコを吸うことは珍しくはない。しかも客は僕一人ともなれば尚更気を遣う必要はないのだろう。年齢は僕と同じ二十五と聞いている。
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