第1章

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
日曜日の昼頃、ちょっと外出しようと思っていた所で家の電話が鳴った。一緒に暮らしている母親は朝から友人と出かけていて居ない。 「もしもし、村瀬ですが?」 受話器を取って言うと、電話の相手は何だか慌てた様に 「あっ、もしもし。村瀬郁美さんはそちらにお住まいでしょうか?」 と聞いてきた。若い男性の声だった。 「はあ、私ですけど。どちら様ですか?」 どうして相手の方から名乗らないんだろうと不思議に思っていると、 「ああ、それなら結構です。お騒がせしました。」 そそくさと電話を切られてしまった。 晩御飯を食べながら母親に昼間変な電話があったことを話した。 「ひょっとしてストーカーかも。」 てっきり「怖いわね」とか「気を付けなさい」と言うと思ったのに、母親は 「あら、そうなの。」 としか言わなかった。 それから二日後の夜、 「郁美、来週の土曜日の夜って空いてる?」 と母親が聞いてきた。 「空いてるけど?」 私の返事にニコッと笑った母親は、一枚の葉書を差し出すと 「それじゃあ、ココに夜十時に行って頂戴ね。」 それだけ言うと、ワザと眠そうな顔をして寝室へと戻って行った。 その葉書の宛名は「村瀬郁美様」になっていて、裏には「無国籍料理 タラート」というお店の地図と「ご来店心よりお待ちしています。」とコメントが書かれてあった。  今まで一度も行った事が無いお店からの招待状に何度も首をかしげながら、翌週の土曜日私は葉書を送ってきたお店へと向かった。 その店は雑居ビルの二階にあって、入り口のガラスドアには 「本日午後十時から貸切り」 とプレートがぶら下っていた。 何が何だが全然解らなくて戸惑っていると、カランとガラスドアが開いて 「村瀬様ですね。お待ちしておりました。」 若い男性が丁寧に挨拶して、「どうぞ」と私をお店の中へと案内したのだった。 こないだのストーカー野朗はコイツだな、と思った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!