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ヒロ兄を抱きしめながら、昔は逆だったなと、懐かしむ。
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今は涼君と僕の見分けが誰でもできるように、髪形を変えたり、しゃべり方も変えているけど、昔は違った。
僕がまだ小学5年生のころだ。
今のような、そんな器用な生き方はできなくて、いつも、”自分”の存在が、なんなのかわからなかった。
僕が居なくても、僕と似ている、涼くんがいれば、家族も友達も、気づかないんじゃないかって。僕が居てもいなくても、変わらないんじゃないかって、そう思ってた。
だから、試してみたんだ。家族を。
僕は、学校を早退して、涼くんのふりをして家に帰ったんだ。
涼くんには、少し頼み事をしてきたから、涼くんが帰宅するのは18時くらいになる。
「…ただいま。」
綺麗に靴を揃えて、誰もまだ帰ってきていない家に帰りを知らせる。
心臓はやけに落ち着いていた。
もし、ヒロにいが、僕を涼くんだと言ったら。そんな不安を抱きながら、僕はヒロにいの帰りを待った。
涼くんの服を借りて、見た目は、僕が認めるくらいに涼くんだった。
ガチャリと玄関が開く音が聞こえた。
「ただいま・・・って、ん?涼が帰ってきてるの?」
ヒロにいの声が聞こえてきた。僕は、涼くんになって、ヒロにいを迎える。
「おかえりなさい。」
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