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「なんですか」
片手をバッグの中に入れて手探りでパスケースの居場所を探しながら、私は振り向かずに返事をする。
「ずっと気になってたんだけど」
「だから、何を」
駅の改札は、もうすぐそこに見えている。
パスケースを掴みバッグから手を出して、ようやく振り向くと、男は何かバツの悪そうな表情をしていた。
「俺、何かした?」
どくん、とひとつ、大きく鼓動が跳ねる。
心の中で落ち着けと命令するけれど、一瞬跳ねた鼓動は後は小刻みに早鐘を打ち、だが平静を装って私は漸う声を出した。
「何かって?」
「それがわかんねぇから聞いてんだろ」
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