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眩暈がしそうだった。
煙草の匂いと男の声に、急速に過去に引き戻されそうになる。
固まって身動き一つできない私の呪縛を解いたのは、背後から聞こえた美里の声だった。
「あ! 藤井さん。お仕事お疲れさま」
同時に片腕が後ろにくんっと引っ張られ、振り向くとカンナちゃんを片腕で抱いて、もう片方の手で私の腕を掴む美里がいた。
「ほら、恵美も早く入って」
「えっ、いや、だから私は……」
この人と一緒に食事だなんて冗談じゃない。
帰る……と、そう言おうとした時だ。
「なんだ、帰るところじゃなかったのか」
先に、この男にそう言われて瞬間にイラついた。
相変わらず、私の神経を逆なでるのが上手い。
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