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「帰りますよ。だからそこ、通りたいんですけど?」
履きつぶしていた踵に指を入れて、きちんと履きなおすとトン、とつま先で床を叩く。
私の言いようが何かお気に召さないのか、目の前の彼がぴくりと片眉を上げた。
「ちょ、ちょっと恵美……」
「じゃあね、美里」
無言で身体を横にして道を開けた彼の横をすり抜けようとして、玄関から一歩踏み出す。
その私をまた引き止めたのはやっぱり美里の声だ。
「恵美ってば……あ、そうだ! 藤井さん送ったげて」
「ちょ……何言うのよいらないわよ」
「だってほら、外もうすぐ薄暗くなるし」
あたふたと話す彼女の様子に、私は漸く理解した。
今日のことは全部、美里の目論見なのだろう。
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