逃げる魚、追う釣り人

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「彼氏になってくれる人がいないだけよ。それと、仕事が今は楽しいし」 「またまた。それは嘘ですよね」 「ほんとよ、仕事楽しいわよ」 「いや、そっちじゃなくてですね」 社交辞令に軽口で応えながら、袋物の商品棚を整理する。 杉浦さんはレジ台でつり銭のチェックをしていた。 自動ドアの開く音がして、杉浦さんの「いらっしゃいませ」と普段よりもワントーン高めの声が聞こえた。 私も手に持っていたラスクの袋を一番前に整えて置き、振り向いた。 「いらっしゃ……い……」 「ませ」は驚きと一緒に飲みこんでしまった。 既視感。 以前も彼はこうして営業の途中に、ふらりと百貨店の洋菓子フロアに立ち寄っていた。 そこには、美里と喧嘩の原因になった、藤井さんが立っていた。
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