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覚えていて欲しいのか、忘れていてほしいのか。
自分で自分の気持ちがわからない。
返事に困って、無言になってしまって、これでは泣いたことを肯定するようなものだ。
この人の腕の中で、私は泣いた。
じっと見下ろしていて彼の目が、何か驚いたように見開かれる。
今、私はどんな顔をしているんだろう。
「失礼します。豊田さん、本社からお電話入ってます」
はっとして、その声の方に目を向けると店長が営業スマイルで藤井さんに声をかけた。
「お客様、何かお探しですか」
店長の背後で、心配そうにこちらを伺っている杉浦さんが見える。
きっと、電話というのは嘘だ。
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