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そうして自然と藤井さんから目が逸れたまま、もう合わせる勇気がなかった。
小さく会釈しながら「失礼します」と言って、杉浦さんのいるレジ台の方へと逃げ出そうとしたけれど。
「待てって」
肘の辺りを掴まれて、反応する前に耳元で気配を感じた。
瞬時のことで、振り向くこともできないまま囁くような声を聴く。
「後で、電話」
それだけ言って、掴まれた腕が解放され、私はそのまま、早歩きで裏にある事務作業の部屋まで逃げ込んだ。
「大丈夫です? 豊田さん」
「ん、平気。ありがとう、店長呼んで来てくれて」
追いかけてきた杉浦さんが、心配そうに私の顔を覗き込む。
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