逃げる魚、追う釣り人

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「昼間の人って」 黙々と作業をしていたら、店長がぽつりと言った。 それだけで、何の話かわかる。 「何か買っていきました?」 「ああ、うん。袋物のラスクを一つ」 「やっぱり」 ふ、と笑ってしまった。 本当に、相変わらずで変わってない。 百貨店に居た頃も、美里の店に顔を出しては何か買って帰っていった。 なんだかんだ世話焼いて、それでもイマイチ美里には気持ちが伝わってなくて、ほんとに残念な人だ。 『後で、電話』 逃げ際に、そう言われて。 いつもは気にならない、制服のポケットにいれた携帯がいつ振動を始めるかと思うと妙にそわそわして、仕事に集中できなかった。
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