逃げる魚、追う釣り人

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彼の質問の、真意がわからなくて、返事を少し遅らせる。 ただ単に、部屋に入ったかどうか気になっているのか それとも部屋の中で何かあったかどうかを、探っているのか。 どちらにせよ、あまり良い予感はしなかったから、嘘で誤魔化した。 「入ってないわよ」 『ふうん』 「……玄関、まで。そこで放り出したわよ、重たいし」 それきり、今度は彼が間を置いた。 私はそれが、居心地悪くていらいらと指がスマホの背中を叩く。 「ねぇ、もういい? もうすぐ家だから……」 『休みはどうせ合わないよな。早番の日は?』 「だから、なんで」 『忘れ物。部屋の中に』
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