逃げる魚、追う釣り人

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「しまった……」 思わずもれた、独り言。 深夜の住宅街では聞く人もいないがその分響いた。 そんなものは知らないと言えば良かったんだ、 せめて捨ててくれても構わないって。 あ、だめだ。 それじゃ部屋に入ったことは認めることになる。 「部屋」と言った。 寝室ではなかったかもしれない。 冷静でいれば誤魔化せたのに。 動揺して言われる侭になってしまった。 「はー……」 落ちた溜息と共に、じわりと胸で疼き始めるものがある。 私はもう自分が何から逃げていて 何を怖がっているのかを自覚し始めていた。
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