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「へー……そんな顔も出来るんだ」
「は?」
「しかめっ面か嫌味な顔しか見たことないから」
そう言うと、訝しげに眉根を寄せる。
ほら、その顔が、いつも私に向けられる顔だ。
「それはお前がいつも不愉快な顔しかしないからだろ」
「そんなことないわよ先に感じ悪かったのはそっち」
などと、往来で言い合っていては通り過ぎる人の視線を一々浴びる。
彼もそれは感じていたのか、数秒睨みあった後、溜息をついて歩き始めた。
私も無言で、その左隣を歩くと右上から声がした。
「あの日は、悪かった」
急に、そう本題を切り出されて油断していた。
胸が抉られるように痛いのは、それはあの夜も聞いた言葉だから。
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