目覚め

28/34
833人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
「へー……そんな顔も出来るんだ」 「は?」 「しかめっ面か嫌味な顔しか見たことないから」 そう言うと、訝しげに眉根を寄せる。 ほら、その顔が、いつも私に向けられる顔だ。 「それはお前がいつも不愉快な顔しかしないからだろ」 「そんなことないわよ先に感じ悪かったのはそっち」 などと、往来で言い合っていては通り過ぎる人の視線を一々浴びる。 彼もそれは感じていたのか、数秒睨みあった後、溜息をついて歩き始めた。 私も無言で、その左隣を歩くと右上から声がした。 「あの日は、悪かった」 急に、そう本題を切り出されて油断していた。 胸が抉られるように痛いのは、それはあの夜も聞いた言葉だから。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!