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目を覚ましてしまったら、またあの冷たい目で見られたら。
私を慰めてくれた優しい夜がなかったことになるような気がして、私は逃げるように彼の部屋を後にした。
ピアスがなくなっていることに気が付いたのは、家に帰ってからのことだった。
まさか……と、彼の部屋のベッドが頭を掠めたけれど。
いつからなかったのかなどよく覚えていなかったから、きっと買い物をしている時にでも落ちたのだと、そう自分に言い聞かせた。
その後は、彼の姿を売り場で見つけるたびに逃げ回り、一度だけあった彼からの着信には出なかった。
彼もそれ以上は私を無理に探そうとはしなかったから。
きっと、あの夜のことは悟られていないのだ。
そう信じて、やがて店を異動になりそれきり会うことはなかった。
美里の家で、美里の策略で彼と再会するまでは。
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