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それなのに、いくら隠れようとしても彼は私の手をはぎ取ってしまう。
「ひど、なんで」
「恵美」
「なんで、忘れたふりして」
「恵美」
何度も私を呼ぶ、彼の声。
その声の優しさに、ほんの少し耳を傾ける余裕が戻る。
お酒の匂い、シャツからは少し煙草の香り。
酷いことばかり言うこの人の、触れる唇はとても優しい。
「……忘れて欲しそうだったから」
ひく、としゃくりあげ見上げた、酔いで充血した彼の目は真っ直ぐ私を捉えていた。
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