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「ほんとに、お酒くさい。んっ……」
彼が首筋に顔を埋めて、またいつもの場所に痕を残す。
そんな痕など残さなくても
お酒の匂いも煙草の匂いも
貴方の匂いも
あの夜から、いつだって私にまとわりついて離れないのに。
執拗に、私に自分の痕跡を残そうとする、この人が。
「藤井さん」
愛しくて、愛しくて。
いつもなら
ただ私を高めるだけのように感じていた触れ合う肌が
私にだけ甘えられる
彼の弱さのように感じられて
「恵美」
私を呼ぶ声に、胸が締め付けられていつまでも涙の気配が消えない。
首筋から胸元に降りる彼の頭を抱きしめて、苦しい程の愛しさを吐息で逃がして。
初めて、心から
抱き合えた気がした。
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