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「やっ……やだ、店長! 本当に、冗談じゃすまなく……」
「冗談? 端から本気だ」
後ろ手に捕まったままの手を、引き抜こうともがいた。
身体を捩っても、男の力に加えてこんな不自然な体勢では殆ど力が入らなくて。
すぐ耳の後ろで感じた熱い息に、悲鳴を上げるしかできなかった。
「好きだったよ、豊田が。それなのに……」
熱っぽい告白も、この状況では恐怖でしかない。
彼は今まで、何度かそんな機会を作ろうとしていたのはわかっていた。
それを遠ざけたのは私だ。
ちゃんと聞いていれば、こんなことにはならなかったのか。
だけど、私の気持ちはもうずっと前から
あの夜に、囚われたままで。
柔かい唇の感触が、耳の淵に触れる。
ぞくりと悪寒が走り、強く目を閉じてしまった。
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