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恐らくは寝ぼけながらでも、話の内容を彼は聞いていたのだろう。
まだ緩慢にしか動かない手でシャツを探そうとする藤井さんを振り向いて、私は言った。
「大丈夫だから藤井さんは寝てて。ごめん、後で連絡する!」
兎に角、急いでいた。
そして、とにかく怒っていた。
店の状況把握もできず完全に色ボケていた近頃の私にも、上に立つ立場でありながら色恋沙汰を店に持ち込む店長にも。
慌てて靴に足を突っ込んで、爪先で床を叩いてきちんと履きなおしながら部屋の扉を開ける。
「恵美、待て!」
扉が閉まる前に藤井さんの私を呼び止める声がしたけれど、その時既に私はもう廊下を駆け出していた。
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