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彼の実家はマンションの割と近くで、歩いてでも行ける距離にある。
わざわざそれを車で行くのは、多分また無理矢理飲まされないように、運転を口実にする為だ。
大きな酒屋さんの正面を、車でそのまま通過して裏に回る。
酒屋と住居スペースは繋がっていて、裏側が住居の入口になっていた。
彼の実家に来るのは、実はこれが二度目だった。
一度目は、あの事件があった後すぐのこと。
藤井さんのお母さんに招待され、私も警察沙汰に巻き込んだことをお詫びしたくてお邪魔した。
実際には私の方がなぜか謝罪されて、私はすっかり彼の家族にも公認の存在になってしまったのだが……玄関前で、軽く深呼吸する。
それは緊張のせいだけではなく、彼の実家にお邪魔するのは少々気構えがいるのだ。
よし、と背筋を伸ばした私の心境を察したのか、藤井さんが小さく笑って言った。
「まあ……そのうち慣れる」
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