俺の名前を呼んでくれ。

11/23
前へ
/23ページ
次へ
彼の実家はマンションの割と近くで、歩いてでも行ける距離にある。 わざわざそれを車で行くのは、多分また無理矢理飲まされないように、運転を口実にする為だ。 大きな酒屋さんの正面を、車でそのまま通過して裏に回る。 酒屋と住居スペースは繋がっていて、裏側が住居の入口になっていた。 彼の実家に来るのは、実はこれが二度目だった。 一度目は、あの事件があった後すぐのこと。 藤井さんのお母さんに招待され、私も警察沙汰に巻き込んだことをお詫びしたくてお邪魔した。 実際には私の方がなぜか謝罪されて、私はすっかり彼の家族にも公認の存在になってしまったのだが……玄関前で、軽く深呼吸する。 それは緊張のせいだけではなく、彼の実家にお邪魔するのは少々気構えがいるのだ。 よし、と背筋を伸ばした私の心境を察したのか、藤井さんが小さく笑って言った。 「まあ……そのうち慣れる」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

724人が本棚に入れています
本棚に追加