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「どうしたの?」
思わずそう尋ねてしまったが、すぐにその表情の意味はわかった。
わかったけれど、藤井さんがまさかそんな些細なことで顔色を変えるとは思わなくて、私の方が面喰ってしまう。
互いに複雑な顔で視線が絡んだ瞬間。
藤井さんがはっと目を見開いた後、すぐに表情を取り繕って再び歩き出し「なんでもない」と言って私をまた追い越した。
……なんでもない、って顔じゃあ、ないけど。
私の真横を通り過ぎる瞬間、見上げた横顔は今までで一番と言っていいくらい、不機嫌だった。
わかってる。
弟さんを『要さん』と呼んだことに拗ねているのは。
だけど、仕方ないじゃないの。
ここは『藤井さん』だらけなんだから。
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