俺の名前を呼んでくれ。

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じっと見つめても、頑なに此方を向かない。 呼びかけるしか、ないわけだけど。 お母さんとの会話で『暁さん』と呼ぶことにはさして躊躇いはなかったのに、本人に向けて口にするのは異常に緊張する。そして異常に照れくさい。 何より、私の中ではすっかり『藤井さん』で定着してしまっていて、名前で呼ぶことなんて今まで考えたことがなかった。 だけど、ここは『藤井さん』だらけで。 彼は、さっきのことですっかり拗ねている。 仕方ない。 「さ……暁さんっ、粕汁……」 「ぶっ」 意を決して出た声は少し裏返ってしまい、粕汁を飲むのかと尋ねようとしているのに藤井さんの吹きだす声で遮られてしまった。
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