俺の名前を呼んでくれ。

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玄関先で悶々と悩みながら靴を履き終えた。 このまま家を出てしまったら帰りまで悶々と悩み続けることになる。 あ、いや。 よく考えたら、私は藤井さんのマンションの鍵を持ってはいないのだから……。 そのことに漸く気付くと、何を期待しているのかと恥ずかしくて顔をあげられなくなった。 鍵なんて、渡されてない。 その上で先に帰れと言われたのなら、つまりそういうことだ。 甘やかされた生活は今日でお仕舞いで、日常に戻るだけ。 一方的な期待をしたことの羞恥心と溢れ出す寂しさに、思わず溜め息を落としたその時に、目の前でちゃりんと金属が触れあう音がした。
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