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「恵美、こっち」
お膳を下げるのを手伝って戻ってくると、藤井さんに声を掛けられ腕を引かれた。
「何? 片付けまだ途中……」
「残りは要が全部下げた」
見ると、確かにまだ少し残ってた食器はテーブル上にはなくなっていて、綺麗に拭かれた後だった。
引っ張られるままに広間から廊下に出て、少し歩くと縁側のような場所に出る。
雨戸を開けると、冷やりとした風が流れ込む。
そこは道路とは塀を隔てて、細長い庭になっていた。
藤井さんは縁側に腰掛けると、屈んで石畳の辺りから灰皿を引っ張り出した。
「ここ、うちの喫煙場。お前も吸えよ」
言いながら、自分は早速煙草を咥えてライターの音を鳴らす。
私は呆れながらその横に腰かけ、首を横に振った。
「吸えるわけないでしょ」
「平気だろ、あの人も吸うし」
「あの人?」
「母親」
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