見えない鎖 【藤井side】

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何階かと聞かれて、うろ覚えの階を押して間違えた。 酔ってはいないが、酒のせいで異様に眠気に襲われて、ところどころ記憶が抜け落ちている。 気付いたらエレベーターに再び乗って、壁に凭れていた。 「19階で間違いない? ほんとに?」 「ん」 懸命に寄り添って甲斐甲斐しい恵美が可愛くて、キスがしたくて仕方ないというのに。 「もう、お酒臭い!」 と顔を背けられて、面白くない。 隙があれば、その白い肌に擦り寄って体温を共有したくなる。 「酔いすぎ。将来酒屋さんになるの?」 「ならねえ、親父の店だし」 半ば力づくで抱き寄せて、首筋の肌に顔を摺り寄せた。 「俺だけ母親の連れ子だから、要が継ぐ方がシンプルだ」 もう何度も味わった、甘くさえ感じるその肌に浸りたい。
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