見えない鎖 【藤井side】

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何の話でそんな馬鹿笑いをしているんだか。 俺の話で盛り上がってるのには間違いないだろうが、改めて聞き耳を立ててみる。 周囲の物音や会話まで頭の中で反響して聞き取りづらく、漸く拾ったのは要の声だった。 「本人は『お前が継げ』って僕に押し付けて就職して出て行っちゃったんですけどね」 その言葉で、俺が家を出た時点でとうに解決しているはずの「跡取り」の話をしているのだと理解する。 何を、今日会わせたばかりの女に聞かせてるんだ。 「恵美」 いきなり家庭内の話を聞かされて、困惑しているだろう彼女の名前を呼ぶ。 「あ、はい! 大丈夫?」 「もう行く」 聞かなくていいんだ、そんな話。
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