見えない鎖 【藤井side】

9/29
前へ
/29ページ
次へ
恵美の肩を掴んで立ち上がると、ぐらぐら揺れる視界に気分が悪くなる。 毎度毎度、この瞬間にはいつも飲んだことを後悔するのに、いつも結局飲まされるのは、やはり好きなのだ、酒が。 「兄貴、大丈夫かよ。豊田さん、車まで? 一緒に行くよ」 「すみません。タクシーで帰ろうと思って」 そんな意味の解らない会話がすぐ傍でされていて、早く休みたいのにと余計に苛立ちが募ってしまう。 何言ってんだ。 部屋取ってあるって言ってるだろ。 肩を支えようと近寄ってきた要を、手で制止を促してスーツのポケットに手を入れる。 指先がすぐに、カードキーに触れた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

851人が本棚に入れています
本棚に追加